「薩摩焼」の中でも金をふんだんに使った「金襴手」は、薩摩藩が世界に誇る芸術品。それを現代に蘇らせる絵師。その細やかな絵付けは唯一無二だ。
ワインカップなど時に小さな作品も手掛ける廣田だが、やはり一番意欲を燃やすのは大型の作品。白薩摩という生地に何を描き、どう見せるかー。若いころから積み上げてきた廣田の多彩な経験を存分に発揮できるからだ。
廣田はかつて工房が立て続けに浸水被害に遭い、作品が全滅した経験を持つ。ただその災難の中で唯一残ったのは金襴手を作るのに欠かせない「窯」だった。高台にある現在の工房に共に移り、再び作品作りに没頭する。
極細の筆で下書きなしで絵を描く。金を盛っては焼くを繰り返し、金を定着させて「金襴手」は完成する。廣田の絵付けの細やかさは唯一無二だ。そこには若い頃の多彩な経験が役に立っているという。
海外での個展などを中心に作品を生み出していた廣田だが、コロナ禍で作業はストップしていた。コロナ禍も終わりが見えてきた今、再び世界へと創作意欲を燃やしている。そこには「再び世界へ」という思いがあった。
優れた技術を持つ九州各地の匠たちを紹介している「匠の蔵」。3月の匠は薩摩焼の最高峰・薩摩金襴手の絵師、廣田実雪さん。取材を担当した歌人・俵万智さんとナレーション担当のジョン・カビラさんが見どころを語ってくれました。