プロ野球は開幕から2カ月が経過した。混戦のパ・リーグは連覇を狙うソフトバンクが5月を終えて首位。投打の故障者続出に苦しみながらも先頭を走っている。TNCのインタビューに応じた新任の小久保裕紀ヘッドコーチ(49)は5月のポイントとなった試合としてグラシアルの負傷に伴い今季初めて柳田を4番に据えた9日の西武戦を挙げ、チームの大黒柱としてさらなる進化を期待した(取材=内藤賢志郎)
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柳田が今季初めて4番に起用されたのは今季38試合目、5月9日の西武戦だった。前日8日の試合で4番に入っていたグラシアルが帰塁の際に右手を負傷。骨折などで長期が確実となり、主軸の再編を迫られていた。野手部門を統括する小久保ヘッドの頭には”原点回帰”の考えが浮かんでいたという。
「グラシアルが長期離脱となり、打順をどうするかと。その時、緊急事態で困っているときは原点回帰だという考えで『4番は柳田で行きましょう』と監督に提案したんですよね。やっぱり、中心が定まらないと浮き足立ってしまう」
それまで2番か3番で起用してきた柳田に小久保ヘッドは「どっしりいけよ」と言葉を掛けて送り出した。その思いを受け止めた柳田は1-1の7回にチーム25イニングぶりの適時打。同点に追いついた6回にチャンスメークした二塁打も含め、価値ある快音の連発で苦しんでいたチームを4試合ぶりの勝利に導いた。
柳田は「4番」へのこだわりをあまり口にしてこなかった。むしろ「打ちたくない」とも言っていたほどだ。今季は前後の打者との兼ね合いで開幕は3番、その後は2番も務めたが、現役時代にダイエー、巨人、ソフトバンクで4番を張ってきた小久保ヘッドが「4番柳田」を提案した背景には明確な根拠があった。
「今の時代は2番や3番に最強打者をという考え方だが、僕の野球観では4番を中心にしたほうがチームが落ち着くという考え。あの試合で柳田がきっちりヒーローになってくれて、それだけで落ち着いた。そこからはずっと『4番柳田』できている。これまで『4番は打ちたくない』という発言もあったみたいだけど、僕より全然実力は上なんで。彼もチームの勝敗を背負って戦っていくと、覚悟を決めてやってくれている。それくらいの選手だし、やってもらわないと困ります」
小久保ヘッドがソフトバンクで現役最終年だった2012年、柳田は1軍で出場機会が増えはじめたばかり。次代の主砲として注目される中、荒削りながらフルスイングでプロ初を含む5本塁打を記録した。小久保ヘッドは自らの「後継者」として引退後もハッパを掛け続け、柳田は15年から小久保ヘッドの代名詞でもあった背番号「9」を継承した。その性格を熟知する間柄だからこそ、小久保ヘッドはハイレベルな要求も投げかける。
「疲れた、疲れたが口癖の選手なのでね。『大谷を見てみろ! 投げて走って打って守ってるぞ』と言ってますよ(笑)。そういう部分でも、彼は世代は違っても大谷の活躍が刺激になっていると思います」
打撃だけではない。4月末に失策が相次ぎ、5月に緩慢ともいえるプレーで相手に隙を見せた際にはこんな言葉も投げかけた。
「恥ずかしいプレーをするから、しばらくは僕から『外野手の失策王』と呼ばれてました。今はセンターはクビでライトを守らせているので。グラシアルが戻ってきたらセンターに戻らないといけないけど、それまではライトです」
柳田は4番に入って17試合で打率3割3分9厘、6本塁打、18打点。チームは9勝5敗3分けで、この間に柳田は4度の決勝打を放つなど打線の中心にどっしり座っている(記録は30日時点)。小久保ヘッドが「しっかりランナー返すかチャンスメークしないと厳しい戦いになってくる。いい仕事をしてくれることを期待している」という背番号9が、覚悟を決めた4番打者としてさらなる進化を遂げようとしている。
(TNC「スポーツCUBE」5月29日オンエアより)